開催レポート:山藤旅聞先生と考える、未来をつくる教育③プロジェクト学習をデザインしてみよう!
(投稿日:2019.5.13)

こんにちは!社会人インターンの京香です。

学校の枠を超えて未来志向の問題解決型学習を実践する「学校デザイナー」、山藤旅聞先生(新渡戸文化高等学校)をゲストにお迎えするシリーズ。今回は3回目になります。

午前は、環境について考えるイベント「アースデイ東京2019」に参画した中高生の3か月を事例にプロジェクト学習を学び、午後は、思考を整理しプロジェクトを設計する「プロジェクトデザインマップ」と実際に取り組むアクションの書かれたカードを使って、プロジェクト実践に向けたワークを行いました。

 

参加者は実際に地域や大学でイベントやワークショップの運営を経験している方が多く、何度も繰り返される「このプロジェクトの最上位目標は何か」という問いかけに、イベントをやることが”手段”ではなく”目的”になっていないか…ハッとした学びの1日になりました。

 

【大成功!に見える中高生主体の「アースデイ東京2019」参画…そのウラ】

イベント当日まで準備期間はたったの3か月。そんな中、環境について発信したい中高生が手をあげ、約100人が参画し、企業に掛け合い協賛をもらいながらカフェを開いたとなったら”大成功!”の他ないですが…そこに至るまでのプロセスは想像を超えるアップダウンがあったようです。

 

約20校の中高生が”0”からスタートするわけですが、山藤先生の覚悟は半端ない!「主体は皆さんです」と大人はサポーターを決め込みます。想像通り、ミーティングの集合率は減少し物事がなかなか進みません。この状態はチームを形成する際の混乱期にあたるそうです。タイムリミットのある中、あなたならどうしますか…。大人が指示を出したくなりますが、山藤先生は違います。熱量の高い生徒を緊急招集し、不満を吐き出してもらい本音で語り合ったそうです。そして、大人が責任をもって出展を「辞めます」とイベント先に謝りに行く辞退カードと、企業に取材に行くなど「これをやってみたら」と具体的に動く提案カードを出しました。どのカードを引くか彼らに選択を託します。そこからの快進撃…今度はやりたいことが「間に合わない」という壁にぶち当たります。

 

チームの移り変わりにどのような声かけをするのか、介入や引き際…ここでの大人の立ち位置が重要と、プロジェクトをデザインする側の参加者も興味津々でした。

【プロジェクトの組み立てを見える化】

「アースデイ東京2019」をプロジェクトデザインマップに書き込みます。

・最上位の本質的な問い…持続可能な衣食住を伝え、行動者に変容させるカフェとは?

・提供する場…作品・成果物…アースディ東京2019 参加者が行動者になるカフェ

・起こしたい変化…行動者にする

・ワクワクの仕掛け…企業への取材、アイデアだし

・パートナーシップ…企業・大学・研究機関

・関係者のハピネス…生徒:企業への提案、先生:最新を学ぶ、企業:アイデアの取得と広報

 

さらに具体的に動くためのカードを作成します。

・専門家への取材(どこに? お願いしたいことは? 何を質問する?)

・企画書の作成(大学・NPO・企業訪問のため)

・提出書類の作成(事務局・保健所)

・制作(企業紹介パネル、スタンプラリー景品、スタンプラリーマップ…)

等々。このカードを使っていつ実行するのかスケジュールに落とし込みます。相手あっての取材等は余裕を持ったスケジュールを組むことが大切。ミッションを共に遂行するパートナーとして、双方ハピネスな状態になることを想像し、コンタクトする前に調べたり、アイデア出しをして向き合います。制作が間に合わないといったトラブルは、作ることが目的ではなく”伝える”にはどう最善を尽くすかと問いかけ(最上位目標の確認)、必要に応じて一緒に頭を下げに行ったそうです。これらの話を聞くだけで、中高生たちが自ら学んでいる活気あふれる姿が目に浮かびます。

 

【「誰がどのように変わればいいのか」想像して、デザインしてみよう】

2つのグループに分かれて、いざ実践。それぞれのグループでは異なるテーマを設定して取り組みました。マップを使うことで、プロジェクトとして考えるべき視点にも気づきやすくなります。

 

テーマ1:高層マンションのコミュニティ菜園プロジェクト

・自治会×学生×パーマカルチャー、菜園が繋ぐコミュニティ作り

・ 顔見知りになると、マンション住民の苦情も減るのではないか。

・菜園を通して関わりを持つことで、健康に役立ったり、子どもの体験教育やシニアの生きがいになるのではないか。

・人も自然も循環の中でいきている。意識が変わり、行動も変化するのではないか。

・月1ペースで収穫やお手入れイベントを打ち出していく。

・最初は学生がプロジェクトを立ち上げるが、住民サークルが自然発生することでバトンタッチしていく。

 

テーマ2:地域の「子ども大会」プロジェクト

・これまでは、運営側がやりすぎていたので、子どもをお客様にしないイベントにしたい

・子どもがお客様になっている。子どもたちに何かやってもらうイベントにしたい。

・大人は学校に入る機会になる。

・商店街に協力してもらい、子どもたちに取材してもらうのはどうか。

・どこの取材をやるかやらないかは子どもたちに選択してもらうとか。

・今年は花がテーマ。成果物としてアイデアがない。→テーマを設けた花壇はどうか。

・学校をからめるには、学校の年間計画を把握する必要がある。

 

【未来に向けた思考回路】

限りのある自然資本、気候変動、環境汚染…日々私たちの暮らしを脅かしています。しかし、目の前の暮らしだけをみれば困らずに生活を続けているように思います。数値で評価する教育は、ともすれば視野を拡げ、暮らしやすい社会をつくる担い手を育むという最上位目標を見失っているのかもしれません。社会が大きく変わっているのに、教育はそれほど変わっていない…この状況から脱しようと課題に向き合い解決していく力を育んでいこうとする山藤先生のパワーは圧巻でした。「集まっても何もない日もあってよし」、「やらない判断もあり」など、真面目な日本人が陥る燃え尽きてしまうパターンに対応する”余白”の提案もありました。また、手をあげた学生が来なくなることにも学びがあるとのこと。やりきれなかったモヤモヤから、次の主体者になる可能性を秘めているからだそうです。

 

1つのミッションに向けて対等に対話を重ね、試行錯誤でより良い方向に向かっていくプロセスにプロジェクト学習の醍醐味を感じました。ミッションに気づく嗅覚も磨きたいなぁ。これからはイベントの裏側を想像し、最上位目標は何なのか探る楽しみが増えそうです。

山藤先生はじめご参加の皆さん、長い時間ありがとうございました。